化学物質過敏症は「過去にかなり大量の化学物質に一度接触し急性中毒症状が出現した後か、または生体にとって有害な化学物質に長期にわたり接触した場合、次の機会にかなり少量の同種または同系統の化学物質に再接触した場合にみられる臨床症候群」(Cullen,1987)と定義されています。
化学物質過敏症は、過敏という名が示すように、ごく少量の物質にでも過敏に反応する点ではアレルギー疾患に似ています。
さらに化学物質過敏症は、低濃度の化学物質に反復暴露されていると体内に蓄積し慢性的な症状を来すという中毒性疾患に近い性格も兼ね備えています。
化学物質過敏症は未解明の部分が多い疾患ですが、このようにアレルギー性と中毒性の両方に跨る疾患、あるいはアレルギー反応と急性・慢性中毒の病状が複雑に絡み合っている疾患であると考えています。
(厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班「化学物質過敏症~思いのほか身近な環境問題」パンフレットより引用)
自律神経障害:発汗異常、手足の冷え、頭痛、易疲労性
精神障害:不眠、不安、鬱状態、不定愁訴
眼科的障害:結膜の刺激症状、調整障害、視力障害
消化器障害:下痢、便秘、悪心
運動器障害:筋力低下、筋肉痛、関節痛、振せん
免疫障害:皮膚炎、喘息、自己免疫異常
循環器障害:動機、不整脈、循環障害
気道障害:咽頭痛、口喝
内耳障害:めまい、ふらつき、耳鳴り
(厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班「化学物質過敏症~思いのほか身近な環境問題」パンフレットより引用)
原則的にはアレルギー性疾患同様、その患者さんにとって合わない物であれば何でも原因物質になる可能性があり、世の中の物質すべてといっても過言ではありません。
以下のような物質が頻度的に原因物質となる可能性が高く、意外と日常生活の中で身近に存在し、意識せずに接触している可能性が高いと考えてよいと思います。
・整髪剤、香料、柔軟剤
・洗剤(合成洗剤等)、漂白剤、芳香剤
・大気汚染物質、花粉
・ディーゼル粉塵、排気ガス
・殺虫剤、除草剤、シロアリ駆除剤
・建材、接着剤、ホルマリン、塗料
・カビ、ダニ、ちり、動物の毛
・食品、食品添加物、残留農薬
(資料:厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班「化学物質過敏症~思いのほか身近な環境問題」パンフレット、「平成27年度環境中の微量な化学物質による健康影響に関する調査研究業務報告書」(学校法人東海大学))
病態生理に不明な点が多いため、本症に特化した治療法は未だ確立されていません。その理由は、複数の病態が重なり合って存在することによる個人差要因が極めて大きいからです。
現時点での対応としては、病状を誘発させると考えられる原因物質からの回避がもっとも有効な対処法です。
(「平成27年度環境中の微量な化学物質による健康影響に関する調査研究業務報告書」(学校法人東海大学)より引用)
症状はいずれも健康な人では許容できる程度の極めて微量な化学物質との接触で生じます。このため、患者さんが安心して生活するためには、周囲の方々だけでなく、社会全体の協力が欠かせません。
私たち一人一人が化学物質過敏症へ理解を深める必要があります。具体的には、洗剤、漂白剤、芳香剤などの日用品の香りが、近くにいる方には苦痛となる場合があることにご理解いただき、ご配慮くださいますようお願いします。
化学物質過敏症により療養中の方が日常生活に支障を来す場合、障害年金の対象となる場合があります。
詳細は、お近くの年金事務所や年金相談センターへお問い合わせください。