大戸川は信楽山地を源とし、甲賀市の信楽盆地、大津市の田上盆地を経て瀬田川に合流する一級河川で、流域面積は約190k平方メートル、流路延長は約38kmで県下6番目の長さを有します。
大戸川ダムは、瀬田川合流点から上流約11kmの地点に計画されています。
大戸川は、瀬田川洗堰の下流側で瀬田川に合流しています。このため、大戸川流域に降る雨は大戸川から瀬田川を経て、直接天ケ瀬ダムへ流れ込むことになります。
下図は、淀川水系各ダムの集水面積と洪水調節容量を示したものです。天ケ瀬ダムの集水面積は350km2、洪水調節容量は2000万m3であり、他のダムと比較すると、洪水調節容量の割に広い集水面積をかかえていることがわかります。大戸川ダムが整備されると、大戸川ダムで150km2の集水面積をカバーすることになるため、天ケ瀬ダムの洪水調節がより安定して行えることになります。
第1回勉強会において学識者からご発言のあった「ダムのスケール感・実力を理解し、有効に活用することが必要。大戸川ダムは天ケ瀬ダムを補うというより、スケール感として役割は非常に大きい。」とは、このことをご説明いただいたものです。
(出典:大戸川ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場 第2回幹事会(平成27年10月30日)参考資料-3)※一部加筆
都の造営のための森林伐採や戦火による消失に加え、大戸川流域はほとんど全域が花崗岩の風化が進んだ地質であったことから豪雨のたびに地表土が流出し、その土砂によって川底が上がり、大戸川はたびたび氾濫を繰り返しました。
国による砂防事業が進められ、今日ではずいぶん緑を取り戻しつつありますが、昭和に入っても大戸川の氾濫はおさまらず、近年では平成25年に大きな被害が発生しました。
出典:大戸川ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場第2回幹事会(平成27年10月30日)資料より
大戸川ダムの目的は、
(1)天ケ瀬ダムに流入する流量を低減させ、天ケ瀬ダムの容量を補うこと
(2)下流部(淀川)で計画高水位を超過することが無いよう、川上ダム・天ケ瀬ダム再開発・既存ダム群と一体となって洪水調節を行い、下流部での水位を抑制することとされています。
つまり、大戸川ダムは、下流部(淀川)の治水安全度の向上を目的として計画されているダムであり、このため国によって事業が進められています。
大戸川ダムは、洪水調節専用のダムとして「流水型ダム」の構造が採用されています。流水型ダムでは、河床とほぼ同じ高さにある放流設備を通して水が流れるため、通常時に水は貯まりませんが、洪水時には、一時的に水を貯めることで、下流の洪水被害を軽減します。
通常時はダムに水を貯めないことや、河床付近に放流設備があることから、魚類等の遡上や降下の妨げにならないという特徴があるほか、流水とともに土砂も流れるため、ダムに堆積する土砂の量を軽減できるという特徴があります。
大戸川ダムは、ダム上流から280m3/sを超える流入量がある場合、それを上回る流入量について調節を行う計画になっています。
(出典:第61回淀川水系流域委員会 審議資料3-1(平成19年9月19日))
平成20年6月に国から「淀川水系河川整備計画(案)」が示されたことを受け、京都府に特に関わりの深い事業の必要性とその効果について客観的評価を行うため、学識経験者による技術検討会を設置されました。
その中間報告において「大戸川ダムは大戸川の治水には有効であるが、水系全体で見れば中上流の改修と密接に関連する施設であり、中上流改修の進捗に伴って必要性が順次高まっていく施設であることから、現時点での緊急性は低いものと考えられる。」「大戸川ダムは、中・上流の改修の進捗とその影響を検証しながら、その実施についてさらに検討を行う必要がある。」とされました。
「これまで河川流域の上流、中流、下流は歴史的にも利害対立の中にあったが、私どもは琵琶湖の恩恵や上流、中流、下流が今までの施設整備において果たしてきた役割を十分理解しながら、上・中・下流が共に真に助け合える河川政策の実現を目指す」ことを基本的な考え方とすることを、三重県、滋賀県、京都府、大阪府の四府県知事が共通認識として確認しました。
この中で大戸川ダムは、「京都府の技術検討会における評価においても、『大戸川ダムは、中・上流の改修の進捗とその影響を検証しながら、その実施についてさらに検討を行う必要がある』とされており、施策の優先順位を考慮すると、河川整備計画に位置付ける必要はない。」とされました。
大戸川ダムは、淀川水系河川整備計画において、段階的な目標として、戦後最大の洪水に対する安全性を確保するためには必要とされました。
ただし、その整備手順として、中・上流部の河川改修や他の洪水調節施設の整備手順を考慮すれば、必ずしも優先しなければならないものではなく、知事意見にもあるように、「中・上流部の河川改修の進捗とその影響を検証」して整備時期を検討するという考え方にも一定の合理性があると判断されました。
そのため、淀川水系河川整備計画では、大戸川ダムについて以下のとおり記載されております。
淀川水系では、これまで工事実施基本計画に基づき8つのダムを整備するとともに、流域の中でも特に人口・資産が集積している下流側から集中的に河川整備を実施してきた。この結果、淀川本川では現況で計画規模の洪水が発生した場合、中上流部で氾濫が生じることもあり、計画高水位以下で洪水を流下させることができる段階まで安全度が向上している。
この間、河川整備をほとんど行うことができなかった中上流部の改修については、淀川水系全体の安全度の向上を図る観点から、いよいよ着手する時期となっている。この際、淀川本川における現況の安全度を堅持するため、中上流部の改修とあわせて、まずは下流部の流下能力増強につながる橋梁改築を実施し、さらに中上流部のみならず下流流量も低減させる効果を有する、川上ダム、天ヶ瀬ダム再開発、大戸川ダム等の洪水調節施設の整備を行うこととする。これにより洪水調節施設下流の各支川の治水安全度の向上も期待できる。
また、各支川には狭窄部が存在し、その上流は浸水常襲地帯となっている。このため、狭窄部及びその上流で河川改修を行った場合には、狭窄部への洪水のピーク流入量が増大することとなるが、いったん狭窄部に流入した洪水は氾濫することなくそのまま下流に達し、狭窄部下流の災害リスクが増大することから、流量増を極力抑制するよう、狭窄部の上下流バランスを確保しながら河川整備を進めることとする。
これらを実施することにより、せめて戦後、実際に経験したすべての洪水を、淀川水系全体で川の中で安全に流下させることができるようにするものである。
実施については、上下流の河川整備の進捗状況、水害の発生状況及び国・自治体の財政状況などを考慮しながら優先順位を定め実施すべき事業を行うものとする。(P.59)
阪神電鉄西大阪線橋梁の改築後においても、計画規模の降雨が生起した場合には、淀川本川で計画高水位を超過することが予測されるため、これを生じさせないよう中・上流部の河川改修の進捗と整合をとりながら現在事業中の洪水調節施設(川上ダム、天ヶ瀬ダム再開発、大戸川ダム)を順次整備する。(図4.3.2-16) なお、大戸川ダムについては、利水の撤退等に伴い、洪水調節目的専用の流水型ダムとするが、ダム本体工事については、中・上流部の河川改修の進捗状況とその影響を検証しながら実施時期を検討する。(P.73)
大戸川ダム建設事業の検証は、大戸川ダム案が最も有利な案であると評価されました。この評価を基に、国土交通省は「事業継続」の対応方針を決定されました。
なお、ダム本体工事については、淀川水系河川整備計画において「中・上流部の河川改修の進捗状況とその影響を検証しながら実施時期を検討する」となっていることから、同計画を変更するまでは、現在の段階(県道大津信楽線の付替工事)を継続し、新たな段階(ダム本体工事)には入らないとされました。
淀川水系河川整備計画に基づき、国によって河川整備が進められております。
例えば、瀬田川では河道掘削が進められており、下流の宇治川では、塔の島改修が概成、天ケ瀬ダム再開発も平成33年を目標に完成に向けて事業を進めておられます。
平成25年に「信楽・大津圏域河川整備計画」を策定し、3.8kmを整備実施区間として計画的に河川整備を進めております。平成29年度末時点で、およそ7割の完成を見ております。
併せて、出前講座を開催して地域の水害リスクや適切な避難行動について地域の皆さまにお伝えするとともに、大戸川およびその支川に囲まれた地区で特に浸水リスクが高いことや、大雨の際には身近な水路からの溢水で避難が困難になること、また過去の水害で堤防が決壊した箇所などを盛り込んだ「防災マップ」を地域の方と一緒に作成しております。
大戸川ダムの本体工事は、平成21年3月に策定された淀川水系河川整備計画に記載のあるとおり「中・上流部の河川改修の進捗状況とその影響を検証しながら実施時期を検討する」ことになっています。
それから約10年が経過しようとしており、この間、河川整備の進捗や雨の降り方の変化など、様々な状況の変化がありました。
そのため県としては、国に対して淀川の中・上流部の河川改修の進捗状況とその影響の検証を早期に示されるよう求めるとともに、滋賀県として独自に勉強会を立ち上げ、滋賀県における大戸川ダムの効果や影響を検証することとしました。
滋賀県における大戸川ダムの効果や影響として考えられる次の2つを検証テーマとしました。
テーマ1:大戸川ダムが大戸川流域に与える治水効果の検証
テーマ2:大戸川ダムが瀬田川洗堰操作に与える影響の検証
なお、大戸川ダム本体工事の実施時期については、国において検討されることとなっております。本県の勉強会と比較して整理すると下表のとおりとなります。
滋賀県 | 国 |
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滋賀県として、大戸川ダムの治水に関する効果・影響を検証する。(1)大戸川流域に与える治水効果の検証 (2)瀬田川洗堰操作に与える影響の検証 | ダム本体工事について、中・上流部の河川改修の進捗状況とその影響を検証しながら実施時期を検討する。(淀川水系河川整備計画 本文より) |
(第2回勉強会平成30年(2018年)12月20日開催)
大戸川ダムの洪水調節効果よって、ダム下流域の浸水被害がどれだけ軽減されるのかを定量的に検証しました。
これまでに大戸川流域で経験した雨の中で最も大きい雨であった「(1)平成25年台風18号」に加え、第1回勉強会における学識者からのご意見を踏まえて、近年全国で発生した豪雨(主に線状降水帯)として、(2)平成30年西日本豪雨、(3)平成29年九州北部豪雨、(4)平成27年関東東北豪雨、について検証を行いました。
検証の結果、大戸川流域に与える治水効果とともに、いくつか課題が残ることもわかりました。これらの課題への対策として、流域治水政策のさらなる推進が必要です。
大戸川ダムが整備されることによって、瀬田川洗堰の操作にどのような影響があるのか定量的に検証しました。
瀬田川洗堰の全閉操作は、操作規則に基づいて次の2つの場合に実施されます。
1. 天ケ瀬ダムへの流入量が一定量を超え、天ケ瀬ダムが洪水調節を開始した場合
2. 淀川の水位が基準を超え、その後も水位が上昇する見込みの場合
瀬田川洗堰の操作は、天ケ瀬ダムの操作に密接に関係しています。
大戸川ダムが整備された場合、ダムに洪水を貯めることで、天ケ瀬ダムの流入量が変化し、瀬田川洗堰操作に影響を与えると考えられます。勉強会では、この影響について検証することとしました。
滋賀県に降る雨の大部分は琵琶湖に流入しますが、琵琶湖からの出口は瀬田川1本です(正確には、琵琶湖疏水や宇治発電所への送水もあります)。平成25年台風18号の際には、琵琶湖への流入量は最大毎秒6,000m3に達し、一方、瀬田川からの放流量は最大でも毎秒800m3程度です。このように、大雨が降ると琵琶湖への流入量が瀬田川からの放流量に比べて桁違いに多いので、琵琶湖に水が貯まり水位が上昇します。
(出典:琵琶湖河川事務所HP「瀬田川洗堰操作規則制定までの道のり」)
琵琶湖の水位上昇は、一般的な河川と比較して緩やかになります。このため、下流の淀川(枚方地点)の流量がピークを過ぎた後で、琵琶湖の水位がピークを迎えるという特徴があり、この時間差は約1日と言われています。
(出典:淀川水系河川整備計画(平成21年3月)P.19)
この特徴を活かして、瀬田川洗堰が操作されています。
琵琶湖を含む淀川流域に大雨が降った場合、琵琶湖よりも先に淀川の流量がピークを迎え、危険な状況となります。このとき瀬田川洗堰からの放流を制限し、下流域が危険な状況になることを回避します。
雨がやみ、淀川の流量が減り始めたとき、やがてピークを迎える琵琶湖の水位上昇を抑制するために、瀬田川洗堰からの放流を増やします。
(出典:淀川水系河川整備計画(平成21年3月)P.19)
瀬田川洗堰の操作は、淀川治水の要と言われる天ケ瀬ダムの洪水調節操作に密接に関係しています。
(下流淀川の洪水流量の低減)
第15条 所長は、次の各号に掲げる場合においては、前条の規定にかかわらず、洗堰からの放流量を当該各号に定める流量以下に制限しなければならない。
一 天ケ瀬ダムにおいて予備放流のための操作が行われているとき 200m3/s
二 天ケ瀬ダムにおいて洪水制御の後の水位低下のための操作が行われているとき 300m3/s
2 所長は、前条の規定にかかわらず、天ケ瀬ダムにおいて洪水調節が開始されたときから洪水調節の後の水位低下のための操作が開始されるまで、洗堰を全閉しなければならない。
3 所長は、前条の規定にかかわらず、枚方地点の水位が現に零点高(O.P.+6.868m)+3.0mを越え、かつ零点高+5.3mを越えるおそれがあるときから枚方地点の水位が低下し始めたことを確認するまで、洗堰を全閉しなければならない。
(洪水調節)
第16条 所長は、洪水期においては、次の各号に定める方法により洪水調節を行わなければならない。ただし(以下略)
一 流入量が840m3/s以上のときは、840m3/sの水量を放流すること。
二 流入量が840m3/s以上で、かつ、減少し始めた時以後において、枚方地点の水位が現に零点高+4.5mを超え、かつ、零点高+5.3mを超えるおそれがあるときから、枚方地点の水位が低下し始めたことを確認するときまでは、160m3/sの水量を放流すること(以下「2次調節」)。ただし、2次調節を行うために必要な貯水池容量が不足すると予測されるときは、その開始を遅らせることができる。
天ケ瀬ダムの洪水調節の目的は、上記のとおり2つあります。
第1項は、宇治(宇治川)のための洪水調節です。宇治川の水位が高くなることを防ぐため、天ケ瀬ダムからの放流量を最大840m3/sとし、それ以上の水を一時的に天ケ瀬ダムにため、宇治川の流量を低減します。
第2項は、枚方(淀川本川)のための洪水調節です。宇治川の水位がピークを迎えた後、下流の淀川本川(宇治川・桂川・木津川が合流した後の淀川)の水位が高くなることを防ぐため、天ケ瀬ダムからの放流量をさらに減らして最大160m3/sとし、それ以上の水を一時的に天ケ瀬ダムにため、淀川本川の流量を低減します。この洪水調節のことを「2次調節」と言います。
天ケ瀬ダム操作と瀬田川洗堰操作の関係
(出典:河川整備基本方針検討小委員会資料(平成19年7月5日))
現在、国では淀川水系河川整備計画に基づき河川整備を進められています。その事業のひとつに天ケ瀬ダム再開発事業があり、平成33年度の完成を目標に事業を進められています。
この事業の目的のひとつが洪水調節機能の向上です。これまで、天ケ瀬ダムの洪水調節時の放流量は840m3/sでしたが、これを1,140m3/sまで増強することにより、天ケ瀬ダムの洪水調節容量の有効活用を図ります。
平成21年に近畿地方整備局と関係府県の技術者によって検討され作成された「琵琶湖・淀川一体化モデル」を用いることとします。
このモデルは、琵琶湖を含む淀川流域に降雨データを与えることで、淀川水系の各地点(例えば、天ケ瀬ダム地点や淀川本川)の流量を計算するものです。
なお、この「琵琶湖・淀川一体化モデル」は、国が淀川水系河川整備計画を検討・策定する際にも用いられたモデルです。
「4.大戸川流域に与える治水効果の検証」と同じ降雨を対象に影響を検証しました。
これまでに県内に降った雨だけではなく、近年、全国で実際に発生した計画を超えるような大雨についても検証を行いました。
検証の結果、大戸川ダムが整備された場合、瀬田川洗堰の全閉を含む制限放流の時間が短縮する場合が多いことが判りました。
また、琵琶湖水位への影響については、大戸川ダムを整備した場合、大戸川ダムの後期放流方法を工夫することで琵琶湖のピーク水位を抑えられることや、瀬田川(鹿跳渓谷)の河川改修を行う場合は、より効果が上がることが判りました。
第3回勉強会において、これまでの検証結果を踏まえ、学識者委員よりご意見をいただきながら、本勉強会のまとめを作成しました。
勉強会へのご意見については平成31年4月8日(月曜日)にて受付を終了させていただきました。ありがとうございました。
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・いただいたご意見【平成31年4月8日(月曜日)現在】