文字サイズ

旧安土巡査駐在所

旧安土巡査駐在所
  • 名称:旧安土巡査駐在所【きゅうあづちじゅんさちゅうざいしょ】
  • 員数:1棟
  • 構造形式:木造・建築面積47.0平方メートル・二階建・南面及び東面下屋附属・桟瓦葺
  • 所有者:滋賀県
  • 所有者の住所:大津市京町四丁目1-1
  • 所在地:蒲生郡安土町大字下豊浦
  • 建物の概要

旧安土巡査駐在所は、蒲生郡安土町の繖山の西麓に広がる「近江風土記の丘」の一角に、南面して建っている。
昭和45年(1960)、滋賀県は「近江風土記の丘」を開園するにあたり、東海道線安土駅から約200メートル南西の旧朝鮮人街道(県道199号)と旧安土街道が交差する角地にあった旧駐在所を、約2キロメートル北東の現在地に移築し、屋外展示施設として活用してきた。その後、建物は平成10年に登録有形文化財となり、平成15年度から18年度にかけて屋根葺替等の修理を行った。
建物は明治18年(1885)10月、住民の寄付金1,000円によって新築され、設計施工は安土村小中の大源工務店水原正二郎と伝わる。当時は旧金田・島・安土の三か村を受け持つ常楽寺交番所と称し、明治23年(1890)に巡査駐在所、昭和27年(1952)に部長派出所となったが、昭和40年(1965)に廃所された。
建物は五角形平面の総2階建て部分と下屋部分からなり、構造は木造で2階建て部分の柱は土台の上に立つ形式である。
外観は、柱を塗り込む大壁の白漆喰壁で、屋根は桟瓦葺とする。玄関部分は両折のガラス扉、扉上部の木製庇はアーチを描く。玄関の上部はさらに切妻屋根を立ち上げ、妻面をペディメント風に漆喰で縁取り、中央に菊の紋章を飾る。軒は蛇腹を造り出し、軒裏まで漆喰で塗り込む。隅柱部分は切石を化粧積みし、壁面の1・2階境は石造の胴蛇腹で区切る。額縁で縁取られた両開きのガラス窓は、上下にそろえて配置される。下屋南面の窓は上げ下げ窓で、額縁の下枠は石を用い、鉄製の竪格子を嵌める。
内部は1階に三室を設け、正面に板敷きの事務室を広く取り、事務室奥の西側を板敷きの洋室とし、東側を四・五帖の畳敷とする。事務室の東側に階段室を配し、2階は畳敷きの二室からなり、北の間の東面に床の間を設ける。また、下屋部分は台所土間と板敷、便所、風呂を設ける。
旧安土巡査駐在所は、明治の早い時期に地元の大工によって建てられたもので、在来の工法を基本としながらも、随所に洋風建築の意匠や技法を巧みに融合させて、瀟洒にまとめられている。外観は洋風を真似た意匠で統一されているが、内部の細部意匠については、部屋の性格によって洋間と和室に分けられている。特に隅切部分に玄関を設け、上部にはアーチと切妻屋根を配し、両隅柱部分に切石の化粧積みで飾るなど、角地に建つ駐在所の建築を強く意識した意匠となっている。また、滋賀県下に残る明治初期の洋風を模した公共建築で、内部までほぼ完全に当初の姿が復原されている遺構は非常に少なく、明治以降の本県における近代化の歴史を伝える歴史的な建造物としても貴重である。