八相涅槃図とは仏伝図の一種で、涅槃図を中心に、その左右に釈迦の生涯の主要な事績七つを描き、涅槃と合わせて八つの事績を描いたものである。本図は中央に涅槃図、向かって右に上から生天下天(しょうてんげてん)、託胎(たくたい)、誕生を描き、左に下から出家、降魔(ごうま)、成道(じょうどう)、転法輪(てんぽうりん)を描く。涅槃図の釈迦は沙羅双樹に囲まれた宝台上に横臥する。宝台の周りに集会する会衆は75に及び、さらにその外側を多くの鳥獣類が取り囲む。画面向かって左端下方の水辺にはナマズ、コイ、フナといった淡水魚が描かれるが、涅槃図に魚類が描かれる例は少なく、敬輔のオリジナルとして興味深い。
作者の高田敬輔は名を隆久とし、竹隠斎、眉間毫翁、梅桃老人などと号した。延宝2年(1674)に近江国蒲生郡日野大窪町の商家に生まれ、京都で狩野永敬に師事して画業を学んだ。道釈人物画や山水画などを得意とし、日野に拠点をおいて諸国を巡歴し、江戸に赴いて将軍にも作品を提供している。最晩年は日野で過ごし、宝暦5年(1755)に82歳で没した。豪放な筆致による個性的な画風は、曾我蕭白(そがしょうはく)や月岡雪鼎(つきおかせってい)など、後世の著名な画人たちに大きな影響を与えた。近世絵画史において、再評価されつつある高田敬輔の代表作の一つとして重要である。