桜は日本を代表する花木で、平安時代以降、和歌や絵画などの題材として好まれ、また、江戸時代以降は庶民にも花見の宴が定着するなど、日本人の生活に欠くことのできない存在として親しまれている。また、早くから品種改良が進められ、現在,おびただしい数の園芸品種がある。その中には秋から冬にかけて開花するものもあり、フダンザクラ、フユザクラ、ジュウガツザクラなどがよく知られる。
西明寺のフダンザクラ(不断桜)は、9月上旬から翌年4月頃まで開花する。花はソメイヨシノなどと比べるとやや小振りで、赤みが弱く、白い小花である。紅葉の11月に満開となるこのサクラは、西明寺境内の樹木と調和して独特の風情を醸しだす。
現在指定されているものは、樹齢250年といわれる古木であるが、母樹の主幹は枯死し、萌芽再生によって維持されてきた個体であり、江戸時代以降の西明寺を象徴する存在となっている。しかし近年,衰退が著しく、その後継木の育成が課題であった。
こうしたことから約30年前に、母樹となる指定木から取り木がなされ、後継木の育成が試みられた結果、3本が育成に成功し、現在の指定木の東側に1本、現本坊の西庭に2本が植えられている。場所により成長等の差異はあるが、おおむね幹径20センチメートル以上、樹高5メートル以上の安定した成木となり、秋には開花し、西明寺の風景の一部として親しまれている。
また、10年前には母樹となる指定木の萌芽から若木を育てることに3本が成功し、本坊庭園上段、仁王門西側平坦面、および三重塔西側斜面の3箇所において一本づつ育成されている。現在では、幹径10センチメートル以上、樹高最大5メートル程度であるが、いずれも安定した状態で、秋の開花も見られるようになっている。
これら6本の後継木は、西明寺における複数回のヒアリング調査によって250年前に西明寺に植えられたとされる母樹(指定木)の由来樹木と認められる。そこで今回、これらの6本を後継木として認定し、追加指定することによって、江戸時代より継承されるフダンザクラの保全をはかるものである。