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シリーズ人権教育(令和5年度)

滋賀県教育委員会発行の保護者向け情報誌「教育しが」に掲載しています。

1月「父の笑顔」

「父の笑顔」

 私の父は、明るくユーモアがあり、人に優しく、よく笑う人でした。

 そんな父が事故にあいました。一命を取り留めましたが、首から下を自由に動かせなくなりました。

 普段、温和な父が入院してから、医師や看護師に対して、怒りをぶつけることが多くなりました。「もう何もしたくない。誰とも会いたくない。」と社会や人を拒絶していました。

 家族で父の病室に行くと、父は眉間にしわを寄せて言葉を交わそうともしません。それでも母は、最近の出来事を話したり、家で飼っている犬や猫の話をしたりします。私は、とにかく毎日父のそばにいて話しかけました。

 そのような状態がしばらく続きましたが、医師や看護師、理学療法士の方々が、根気よく励ましてくれました。ただ、けがをした直後のリハビリは激痛を伴うようでした。あまりの痛さで「勝手に動かすな!」と怒る父に、「一度に動くようにはならないですよ。でも毎日コツコツと続けていくことが大切ですよ。」と、粘り強く訓練を続けてくれました。病院の方々の熱意に押された父に変化が出始め、少しずつリハビリに取り組むようになりました。そのおかげで、自分で肘を曲げたり、肩を上げたりと、できることが増えていき、父の表情も明るくなっていきました。「毎日頑張る姿を見て、こちらも元気をもらってますよ。」と声をかけられるなど、父の前向きな姿が周りを元気にしていく様子も見られるようになりました。

 しばらくして、「もっと頑張れば、家に帰れるかなあ。」と父が言いました。それは生きる望みを無くしつつあった父が、みんなに支えられ、生きる力を取り戻したからこそ、発せられた言葉でした。

 事故から二年が過ぎ、ようやく父が自宅へ帰れる日がきました。その頃には父の温和な笑顔が戻っていました。退院する時に、病院の方々が自分のことのように喜んでくれました。単なる仕事としての関わりではない、温かな心のつながりを私は感じました。

 父がけがをする前の生活に戻ることはありません。しかし、家で家族と犬と猫に囲まれて暮らす父は幸せそうに見えます。車いすを押して散歩に出かけた時、ふっと父がつぶやきました。「よく毎日病室に来てくれたよなあ。みんなありがとうな。」

 父にとっては母が支えとなり、母は父を支えたいと思い、その父と母を支えたのは、家族であり、病院の方々でした。

 一緒に苦しみや喜びを共有できる人がそばにいてくれて、しんどい時の励みとなり生きる力となる、そういった人々とのつながりに、私は改めて感謝しました。

 

10月「花が伝えてくれたこと」

「花が伝えてくれたこと」

 私が通勤で利用している駅の改札付近には、花が生けられています。毎日慌ただしく、なんとなく目に入る程度で花の前を通過していました。

 ある日の帰りに、若者が生け花を見つめていました。その姿に興味を惹(ひ)かれ、私もわずかな時間でしたが、立ち止まってその生け花を正面から見てみました。生け花からは、凛(りん)とした姿でたたずむ力強さと美しさが伝わってきて、日頃の忙しさを忘れ、心が癒される思いがしました。

 その日をきっかけに生け花を見る回数は増え、癒しと元気をもらえるこの時間は、私のささやかな楽しみとなりました。

ある日、花を生けておられる場面に遭遇しました。自分の母より少し年上と思われるその方は、生け花の作品作りに集中されていました。話しかけることはできず、心の中で「いつもありがとうございます」とつぶやいて、通り過ぎました。

 そんな日々が数年続いたある夏の日の出来事です。珍しく生け花の作品が飾られていない日がありました。「あれっ」とは思ったものの、その時はあまり気にもとめず通り過ぎましたが、何日経ってもガラスケースに作品が飾られることはありませんでした。

 私は言葉では言い表せない喪失感を感じていました。生け花からもらっていた恩恵に気づくとともに、それを与え続けてくださったその方への感謝の気持ちがあふれてきました。

 そして同時に、自分の母のことを思い出していました。母は、定年の年まで事務関係の仕事を続け、私を含めた三人の子どもを育ててくれました。日々忙しく仕事をこなしていた母でしたが、休みの日には家の前に並べたプランターや近くの公園にある小さな花壇に花を植えていました。ご近所の人たちは母の植えた花を見るたび「きれいやねぇ」と笑顔で話されていました。色鮮やかな花がある風景は、その頃の私にとって「当たり前」だったのですが、この風景があることで、周りの人の心にうるおいを与え、人と人とをつないでいたのだと、改めて感じました。

 そんな想いを抱きながら、街中(まちなか)を観察してみると、歩道脇のプランターの花や、飛び出し注意を促す看板、ご自由にお使いくださいと表示された傘や自転車置き場の空気入れなど。駅周辺だけでも私の知らない誰かの、他者を思うあたたかい心遣いにあふれていることに気がつきました。

 その日から、あたたかい心遣いの形を見つけるたびに、心の中で「ありがとうございます」とつぶやくようになりました。今度、子どもを連れて街中にある心遣いを見つけにいこうと考えている今日この頃です。

7月「好きな色は何ですか?」

 今から四十数年前に私が通っていた小学校では、ランドセルは女の子は赤色、男の子は黒色でした。

 当時、「なんで私は赤なん?黒がいい!」と何度となく親に訴えていた記憶があります。そして、私は「赤色ランドセル」が嫌で、汚してみたり、滑り台から滑らせて表面にキズをつけたりと、何とかして、このランドセルから逃れたいと必死になっていました。そんな私の行動を見た親は「女の子は赤。周りの女の子もみんな赤やろ。一人だけ違ったらおかしいやんか。せっかく買ったんだから、ていねいに使いなさい。」と言い続けました。

 高学年になり、リュックタイプのカバンも使用してよいことになりました。親からは赤やピンクなどの暖色系の色を何度も勧められたのですが、気持ちよく学校に通いたかった私は、自分の思いを何度も伝えました。そしてついに、私は自分の大好きな青色系のリュックを誕生日プレゼントに買ってもらい、それを背負って通学するようになりました。

 2000年ごろから、様々な色のランドセルが販売されるようになってきたように思います。社会人になっていた私は「今の小学生には選択肢がたくさんあって、好きな色を選べるなんていい時代だなぁ。」とうらやましく思っていました。

 ところが、ある日、ランドセルにかかわる記事に「男の子は寒色系が、女の子は暖色系かパステル系の色を購入することが多い。」と書かれていました。色の種類は確かに増えましたが、色の好みを考えるときに、「男の子は…」「女の子は…」とフィルターをかけている社会がある、ということに改めて気づかされました。

 最近、多様な性のあり方について話題に上がることが増え、通勤中の車内でも、ジェンダーレスなデザインの服装や髪型をした人の姿を見かけるようになりました。しかし、私の周りを見てみると、まだまだ性別で好みを決めつけてしまう意識が残っているような気がします。周りの目を気にすることなく、周りに価値観を押し付けられることなく、それぞれの個性が尊重される社会の空気をつくる一人になりたいと思っています。

4月「親としてできること」

 娘が四歳の時、同じ年齢の子どもたちの多くは、習い事をいくつかしていました。わが家でも、娘により充実した休日を過ごさせたいという思いから、いろいろ調べて、体験レッスンに参加し、その中でも楽しそうにしていたピアノを習わせることにしました。

 最初は喜んで通っていましたが、毎日のように練習しないと、なかなかついていけず、半年くらい経った頃、練習をとても嫌がるようになりました。うまくできないので、やりたくないようでした。

 「練習したらできるようになる。」「一緒にやろう。」「一回だけやってみよう。」「練習してからおやつを食べよう。」「発表会で弾けなかったら嫌やろ?」と、いろいろと声をかけ、練習をうながしました。安くはない月謝を払っているし、途中でやめるとあきらめ癖がついてしまいそうで、私としては何とか頑張らせたいと思っていました。

 しかし、ついに何を言っても練習しなくなり、無理にやらせようとすると泣き出しました。また、私も練習させることに疲れてしまいました。「ピアノどうする?」と聞くと、「やめる。」と娘は言いました。

 ピアノの習い事をやめてしばらく経ったある日、何気なく娘を見ていると、今日もブロックの人形を休むことなくせっせと並べて、何かつぶやいていました。「そうか。娘はこれが好きなんやなぁ。」

 そこで、五歳の誕生日にブロックを買い足すことにしました。娘は大いに喜び、自分の遊びを広げていきました。二歳の妹も一緒になって、人形を並べて遊ぶようになり、「これからこの子たちは動物園に行く。」「順番を待たないとダメでしょ。」「この子はこっち。」など、娘たちの中で物語ができているようでした。想像力を働かせながら遊ぶのはよいことだと思いました。

 「ごはんできたで。」「お風呂に入るで。」と何度声をかけても全然聞いてくれないのは困りものですが、この遊びへの集中力はなかなかのものだと思いました。

 成長していく中で、やめずにやり抜くことは大切だと思います。ただ、何が正解かはわかりませんが、今回は習い事をやめてよかったように思います。

 仕事が忙しく、娘たちと向き合う時間を取りにくいですが、今どんなことに興味があるのか、何を考えているのか、目の前の姿をしっかりと見て、コミュニケーションを取り、親としてできることをしていきたいと思います。

 この四月に上の娘は年長になりました。どうも最近は虫に興味があるようです。私は虫が苦手ですが、この週末には、一緒に公園に行こうと思っています。

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教育委員会事務局 人権教育課
電話番号:077-528-4592
FAX番号:077-528-4954
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