滋賀県教育委員会発行の保護者向け情報誌「教育しが」に掲載しています。
我が家では家族三人でつづる家族日記があります。娘が誕生したのを機に、その成長と家族の出来事を記録するため夫婦で始めました。時折読み返しては、「そんなことがあったなぁ」や「こんなことを想っていたんだ」と振り返ることができ、気が付くと十年近く続いています。今では、娘も加わり三人で書いています。
四月のある日、しばらく見られていなかった家族日記を読んでいた時に、娘が書いた言葉が目に留まりました。「お父さんに筆で書いた字を見せたら、練習するともっとうまく書けるようになるって言われていやだった。」と書いてあり、「いやな気持ちになっていたんだね。紙いっぱいに文字を書いて気持ちよかったんだよね。」と妻からの返事も書かれていました。その瞬間、あの時私が娘にかけた言葉が頭に浮かび、ハッとしました。
以前、小学三年生になる娘が初めて習った毛筆の作品を誇らしげに見せに来たことがありました。勢いはあるけれど、バランスが良い字とは言えなかったので「練習したらもっときれいに書けるようになると思うよ。」と私は返事をしました。すると娘は「うん。分かった。」と答えたきり、少しうつむいて、自分の部屋に戻りました。その後も、毎日のように学校での出来事や友だちのことは話してくれていたのですが、会話が一言二言で終わってしまうことが気になっていました。娘に対して頑張ってほしい気持ちを伝えることは間違ってはいないと思いますが、もしかして、私の言葉は、娘からすると頑張りを否定されたように聞こえてしまっていたのではないか。そんなことを意識しながら妻の書いたところを読み返してみると「鉄棒は手が痛いよね。でも、できると楽しいよね!」「合奏は緊張するよね。成功するように応援してるよ。」といった言葉が書いてあり、相手の気持ちを考えた言葉の大切さに気付かされました。
翌日、私は「この間の体育の参観でリズムに乗って笑顔でダンスしていたね。思わず笑顔になっちゃったよ。」と声を掛けました。すると娘は、友だちと一緒に練習したことや先生から教わったことをたくさん話してくれました。その時の娘は、本当に嬉しそうで、私は頷きながら聞きました。
それからというもの、娘との会話は一言二言では終わらず話が弾むようになってきています。娘に対してだけでなく、妻や職場でも相手の気持ちに寄り添った言葉がけができるよう、心掛けていきたいと思っています。