文字サイズ

2024年度(令和6年度)「ココロさんの ひとりごと」

No.33(2024年7月)「正解」を求める心の動きと不安の関係

『正解』を求める心の動きと不安の関係

 私たちは元々、「よく分からないこと」に出くわすと「不安」を感じ、答えを求めようとします。私たち人間が未知のものを食べたり触ったりすると、病気になったり襲われたりするかもしれない環境で生きていた時代の生存本能とも考えられます。自分の身の安全を守るためには、自分にとって害のないことかどうか判断し、「どうふるまったら安全か」を知ることが大切で、年長者から「正しいふるまい」を教えてもらうことが重要でした。

 しかし近年のグローバル化に伴い、多様な文化や価値観を持つ人々の交流や、様々な分野の研究開発が盛んになり、新しい考え方がどんどん生まれています。それぞれの考え方、ふるまい方、アプローチのやり方に違いがあることが分かり、「正しいふるまい」や「正しい考え方」も一つに決められなくなってきているのを皆さんも感じていると思います。

 世界中それぞれの国で多様な法律があることを知っている人も多いでしょう。私たちが今まで「常識」と思っていたことは、その環境を出れば、あるいは時間が経てば「常識ではなくなることもある」と知られるようになってきました。今や「絶対的な正解」と言える事柄は存在しえないのかもしれません。

 「正解」を求めても分からないことを私たちは理解しているのですが、その一方で、私たちの生存本能が「正解」を知って安心しようとする自然な心の働きがでてくるので、正解を追い求めようとしてしまうことも体験するでしょう。私たちが生きていくにはこの「正解が欲しい、でも見つからない」という不安と付き合っていくことが求められるのかもしれません。時代が急激に変化する昨今、「正解のないあいまいで不安な状態」を耐える力が以前よりももっと重要になっていくのではないかと思います。

 不安と付き合い「自分なりの解決」を見つけるためには、人の話をきく、話しをきいてもらって考えを整理する、いろいろなところに出かけてみる、本を読む、映画をみる等、さまざまな体験の中からヒントを得、それをもとに自分で試行錯誤し、もがいてみることが大事だと思います。そのプロセスそのものがその人らしいふるまい方を育み、その経験が後々、他の人の気もちを理解できる人間としての幅として現れるのかもしれません。いろいろな方法を試しながら自分にあう不安との付き合い方を探していきましょう。

No.32(2024年5月)なってみた

「なってみた」

 「~っぽくする」「〇〇テイストで」「なんとか風に」などいろんな表現がありますが、それらはすべて何かの真似をすることです。真似というと、「パクリ」、「オリジナリティがない」など否定的な印象がありますが、そもそも私たちは真似する動物であり、むしろきちんと真似ることが成長や独自性につながるという面もあります。

 例えば赤ちゃんを思い浮かべましょう。赤ちゃんは様々なものに興味を持ちます。なかでも人に対する敏感さには素晴らしいものがあります(養育者と似た声の人が頭上から声をかけると、間違うこともありますよね。赤ちゃんは背が低いので…)。そうして「ちょうだい」「どうぞ」ができたり、「バイバイ」ができるようになっていきます。これらはみな「模倣」のたまものです。そうやって、適切なふるまいを身に着け、社会に招き入れられていくのです。しばらくすると「同一化」という現象が見られるようになり、周囲が持っている物を欲しがり、ファッションを真似るようになります。「推し」のグッズを身に着けることもしかり。人は人生のほとんどを真似して過ごしているのかもしれません。

 しかし年頃になると、「自分って何だろう」という問いが生まれます。「人と比べて自分は何が得意だろう?」「頑張ってやってきたけど、それって親の期待だったのかも」など、自分に対して疑いの気持ちが生じ、不安や緊張が訪れます。「私はどうやって今まで“私”をしていたのだったっけ?」。それはまるで、踊り方を尋ねられた途端、ステップが踏めなくなった昔話のムカデのようです。

 こういうとき試してみたいのが、意識的に誰かに「なってみる」ということです。「発表が緊張する」のであれば、憧れの先輩になってみましょう。先輩なら、どんな話し方をしますか?どんな表情を作りますか?もちろん「先輩」の憑依(ひょうい)は3分が限度かもしれません。しかし一瞬でも「誰か」になれたことは、自分がその表現の行為主体になれたという点では「私らしさ」の一歩です。「意識的に」というのがミソで、そこに自分の工夫が入るからです。

 そう、オリジナリティは細部に宿るのです!真似からのズレ、原版のアレンジによって文化が発展してきたように、借り物の型から始めて、それを使いこなせるようになったときに、あらためて私たちは「自分ってまあこんなもんだよな」と受け入れられるのではないでしょうか。

お問い合わせ
滋賀県心の教育相談センター 滋賀県野洲市北桜(滋賀県総合教育センター内)
電話番号:077-586-8125
Adobe Readerのダウンロードページへ(別ウィンドウ)

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先から無料ダウンロードしてください。