11月26日(土曜日)にピアザ淡海(大津市)で「滋賀 教育の日」推進フォーラム2016を開催しました。
今年は「子どもの生きる力の源-自尊感情の育て方」をテーマに、130名(総参加者)のご参加をいただきました。
開会にあたって、水上敏彦滋賀県教育委員会事務局教育次長から挨拶がありました。
「滋賀 教育の日」推進フォーラム2016は、10月から11月にかけて実施された140を超える教育関連事業の締めくくりとなるものであり、地域や企業等も含めて、社会全体で滋賀の教育について考え、子どもの育ちを支える環境づくりを目的に、多くの方々が連携・協力しながら取り組んでこられたことに対して謝意を示しました。
この「滋賀 教育の日」の取組をきっかけに、県民の皆さまと課題を共有し、力を合わせながら、元気よく、明日の滋賀を担う心豊かでたくましい子どもたちを育て、魅力ある滋賀の教育を作るため力を尽くしてまいりたいという決意を述べ、さらなる協力を呼びかけました。
平成28年度滋賀県教育功労者表彰の表彰式では、これまで教育や学校保健、社会教育の分野において顕著な功績を収められた方々を表彰しました。
森本 明 | 前栗東市教育委員会教育長 |
野﨑 昭彦 | 学校医 |
川尻 哲央 | 学校歯科医 |
小島 宏司 | 学校歯科医 |
大迫 芳孝 | 学校薬剤師 |
村田 利子 | 東近江市社会教育委員 |
今年は以上の6名の方が受賞され、この日は5名の方に対して水上敏彦教育委員会事務局教育次長より表彰を行いました(1名は欠席)。
はじめに、NPO法人D.Live(ドライブ)の田中 洋輔(たなか ようすけ)代表理事から、「『子どもの自信白書』から考える思春期の子との関わり方」と題して講演をいただきました。
講演では、主に次のようなことについて田中氏からお話しいただきました。
・高校で野球部に入ったが不登校になり、その経験から、D.Liveを立ち上げることにした。
・日本は、他の国に比べて、「自分自身に満足している」割合が低い。「うまくいくかわからないことに意欲的に取り組む」割合も低く、一方で、「自分はダメな人間だと思う」割合が高い。
・日本の子どもに必要なのは「自尊感情」である。D.Liveは、「子どもがなりたい自分に向かって思いきり取り組める社会をつくること」をミッションとしている。
・思春期の子との関わり方について、D.Liveの活動で大事にしているのは「包み込まれ感覚」。
・「子どもの自信白書2016」に寄稿された高垣忠一郎氏によると、子どもが苦しみや悩みを安心して漏らし、それを丸ごと受けとめてやれる「おしめパンツ」のようなおとなが求められているという。
・やりたいことがない子はいない。だから、子どもに寄り添って、徹底して「聞く」ことが大事。
・子どもは「見守るだけ」ではダメ。子どもが苦しみ、悩んだ時に、いつでも掴めるように、常に手を差し出しておく必要がある。
・つらい時に、つらいと言うことは難しい。だから、不安や悩みを話せる関係をつくっておくことが大事。
・サン=テグジュペリは、「愛とはそれはお互いに見つめ合うことではなく、いっしょに同じ方向を見つめることである」と言った。子どもの真正面で向き合うのではなく、同じ方向を見てあげることが大切。同じ方向を見るためには、子どもがどこを向いているか、どこを見ているか知らなければならない。その子どもが「どうしたいか?」を知る、聞くことが大切。
・親が自分のことをよく分かってくれていないと思っている子どもは、中、高で割合が高いが、一方で、保護者の9割近くは、自分の子どものことをよく理解していると思っている。そのギャップを認識する必要がある。
・子どもの話を受け止め、とにかく聞くことが大事。
・「子育ては、野球チーム」である。学校の先生が、捕手もやって、内野も守って、外野も守っているのが現状ではないか。チームだから、役割分担が大切。先生は内野、市民団体は外野。そうやって、それぞれが出来ること、得意なことをおこなうようになれば、もっと子どもたちのことを見てあげることができる。その一端になりたいと思い、D.Liveは活動をしている。
続いて、大阪成蹊大学の園田 雅春(そのだ まさはる)教授から、「教育の原点『自尊感情』の育成~子どもとともに育つ元気な社会(家庭・地域・学校)づくり」と題して講演をいただきました。
講演では、主に次のようなことについて園田先生からお話しいただきました。
・子どもは社会のカナリアだと思う。社会の空気がおかしいと、大人以上に敏感に「荒れる」という形で反応する。
・自分を大事にしてくれていると実感すれば、子どもはその信頼に応えようとする。自分は大事にされているという実感、感覚を「被尊性」と呼んでいる。被尊性から自尊感情が育まれる。
・子どもは、居場所といっても単なる空間(スペース)を探しているわけではない。自分のことを認めてくれて、受け入れてくれる人、すなわち「居人(いびと)」がいる場所を探し求めているのである。
・学校や家庭、地域で、「こ居人(こいびと)」がいれば、子どもはつながりを感じたり、認めてもらっていると感じられる。
・子どもをほめるよりも大事なことは、「思わず 共感」することである。大人がアンテナをしっかり張って、思わず「すごい!」とか、「さすがやな!」と感じた時にそれを子どもに伝えれば、結果として子どもは褒められたと感じる。初めから褒めなければいけない、褒めるところを探さないといけないと思うと、大人にとってもしんどいし、子どもだって感付く。
・一方で、よく言われることだが、子どもの悪い点ばかりをあげつらっていると、そうなってほしくないような人間になってしまう。
・高校生が、自分のことをダメな人間だと思う割合は、諸外国に比べて日本は高い。心が満タンではない。
・自尊感情の一部である自己肯定感を測る「自分には、よいところがあると思いますか」という質問に、滋賀の子どもたちは、全国平均とほぼ同じ割合で答えている。一方、秋田県は小、中ともに8割以上が自分にはよいところがあると考えている。自己肯定感と学力には、相関関係があるといわれている。秋田県の学力が高い要因の一つとして、根気や粘り強さを暮らしの中で培っているのではないか。
・自分にはよいところがあると思う子どもをどのように増やしていくのか。それをぜひ関係者全員が一緒になって考えていただきたい。
・「自尊感情」は生きる力の源泉であり、優しさと学欲(学習意欲)を保障するものである。「自尊感情」とは何かを考える時、その反対語を考えてみるとよい。反対語は、「自己差別感情」である。
・「自尊感情」は心理学の言葉で、19世紀後半に研究者が唱え始めたが、「自尊心」は日本では諭吉や漱石の時代から用いられた言葉。しかし、自尊感情と世間でよく使われる自尊心は、似て非なるものである。
・世間で使われる「自尊心が高い人」は、自分をひけらかし、相手を見下す。言い換えれば、「歪んだ自己愛」の持ち主である。
・健全な自尊感情は、他者との関係で豊かに育まれていくものである。
・自尊感情は3つに類型化できる。よいところに対して肯定的な評価をされることで育まれるもの(A)、十分でないところに対して肯定的な評価をされることで育まれるもの(B)、そして、よいところもそうでないところも含めて、そこにいることが大事という感覚(存在承認)(C)の3つである。
・AとBの自尊感情は相対的なものであるのに対して、Cの自尊感情は絶対的なものである。
・「あなたが大切」「いてくれるだけでほっとする」という言葉が、子どもの絶対的自尊感情を育み、それが優しさと学欲の源になるのである。
続いて、座談会では、講師に加えて、家庭・地域・教育現場で子どもの育ちに携わる方々に登壇していただき、意見交換を行いました。
座談会では、主に次のようなやり取りが行われました。
~この一言で子どもが変わったという事例~
・子どもを信じて、頼ることが大事。
・子どもにかける言葉はいつも素晴らしい言葉である必要はなく、ちゃんと見ているとか、接しているということが分かるようなものであればいいのではないかと思う。
・学校の中でも、教師が口を出したり手を出さなくても、子ども同士でうまくできるということはいくらでもある。
・大人は先読みをしてつい口を出したり手を出そうとしてしまうが、そこを我慢して一歩引いてみると、子どもたちは自分で考えて自分で行動することがある。任せるのとしっかり導くところと、そのバランスが非常に難しい。
・子どもは、大人から褒められるよりも、他の子どもから褒められた方が、自分はすごいのかと感じると思う。
~家庭、地域、学校それぞれで子どもの自尊感情を育むためにどうしたらよいか~
・学校、家庭だけではどうしても評価の尺度が単一的になりがちであるが、地域や団体の活動をみると、コミュニティによって評価の尺度は変わってくる。多様な価値観、いろいろな尺度がある場所に子どもたちが身を置けるようになれば、そこに自分の居場所を見出すことができるのではないか。
・学校の中でも、教員が多様な価値観を持つ必要がある。また、一歩でいいので地域に出ていくことが必要だと思う。
・クラブでの活動によって、地域のあちこちで顔見知りができて、子どもが地域の中で包み込まれ感覚を感じることができるようになれば嬉しい。
・子どもの貧困が大きな問題となっているが、経済的な貧困に加えて、自尊感情の貧困もある。そして、子どもの自尊感情の貧困には、保護者の自尊感情の貧困も関係しているのではないか。保護者に対しても、自尊感情の重要性を訴えていく必要がある。
また、座談会の中では、会場からのご意見・ご質問をお聞きし、それについて、登壇された方々が意見交換を行う場面もありました。
~登壇されている皆さまは、ご自分の自尊感情をどう感じておられるか~
・自分は周りの人から本当に大切にされていると実感している。だから、自分にできることが少しでもあれば、地域や家族に恩返しをしたいと思っている。
・悩みや不安を抱えた保護者が、歌や音楽等の活動に参加されて、少しでも笑顔になっておられる姿を見ると、自分がやっている活動は意味があるのかなと感じる。
最後に、コーディネーターである園田先生から総括をしていただきました。
自尊感情は、相対的自尊感情と絶対的自尊感情の2つに整理できる。先ほどの講演で述べた自尊感情AとBは、相対的自尊感情である。感情なので不安定なところがあり、気分によって変わることもある。一方、絶対的自尊感情は、自分という人間は世界にたった一人だけであり、自分が自分であるということを受け入れる気持ちである。この相対的自尊感情と絶対的自尊感情を含めて、自尊感情を捉え、考えることが大事。
目の前の子ども、あるいは子育てに悩んでいる保護者の方に対して、「あなたはすごい!」ということをどれだけ発信できるか、つながりを持てるか。自尊感情は集団の中で育まれるものである。
世界はこれから不確実な時代に入っていく。その中で大事なのは、ジェネリック、汎用性である。何が起こるか分からない時代の中で求められるのは、何にでも有用な力である。そして、自尊感情はその力の一つである。
「勤勉性(やりぬく力)」と「経験への開放性(好奇心)」の二つが備わっていれば、IQの高低などにかかわらず、好成績をあげたり社会的に成功することができるという実証研究がある。なかには「私は頭がよくないから」と思い込んであきらめてしまう子どももいるが、この二つを子どもたちに育んでいけたらと考えている。しかし、この二つの根底には、やはり自尊感情というものが大きく横たわっている。
本日は、自尊感情について、いろいろな立場からいろいろなご意見をいただいた。本日ご参加いただいた皆さまに、今日の話を地域、家庭に持ち帰っていただくことで、子どもたちの自尊感情が育まれ、それを源泉として、やってみたい、あの子のようになってみたいという学欲(学習意欲)が育まれる。それが結果として学力向上にもつながっていくだろうと思う。
フォーラム当日は、県内の特別支援学校の児童・生徒が作った作品を展示しました。
作品提供・・・北大津養護学校(小学部・中学部・高等部の皆さん)
作品提供・・・草津養護学校(高等部の皆さん)
新旭養護学校高等部の皆さんが育てたお花がステージを彩りました。
フォーラムの題字は膳所高等学校書道班の皆さんに書いていただきました。